#58 歯・口腔の健康と全身の健康

代表的な歯・口腔の病気は、う歯(むし歯)と歯周病です。このうち、歯周病は糖尿病と関連することが知られています。糖尿病は糖代謝異常により高血糖状態となる代謝疾患ですが、糖尿病による免疫機能の低下から感染しやすい状態になり、歯周組織においても炎症が進み、歯周病が進行します。

一方、歯周病のある糖尿病患者に対して、歯周病の治療を行うと、血糖コントロールが改善します。この背景には、歯周組織における炎症性物質が血中に流れ込み、全身炎症を引き起こし、インスリン抵抗性が悪化し、血糖値が上がりやすくなるという関連性があります。そのため、歯周病治療を行うと、全身炎症が改善し、インスリンが効きやすくなり、血糖値が下がるのです。

その他にも、歯周病は心疾患や慢性腎臓病、呼吸器疾患、骨粗鬆症、関節リウマチ、がん、早産・低体重児出産などと関連することが報告されています。そのため、歯磨きなどの口腔清掃の習慣化は、全身の健康を守るためにも重要なのです。

歯・口腔の健康は、口腔清掃だけでは実現しません。食事やストレス、たばこの影響も受けます。食事については、食べる回数が多かったり、甘いものを取り過ぎたりすると、リスクが増加します。ビタミン、ミネラル、たんぱく質が豊富な食事をよくかんで食べることでリスクが軽減されます。慢性的なストレスや喫煙は免疫機能を低下させ、歯周病のリスクを高めます。また、喫煙は、タールによる着色で歯垢がつきやすくなり、う歯・歯周病のリスクを高めますし、舌がんなどのがんリスクも高めます。

高齢期では、う歯や歯周病によって歯を失うと、咀嚼機能や嚥下機能が低下し、十分な栄養がとれなくなるリスクが高まります。低栄養は筋肉量の減少から、運動機能の低下につながり、要介護リスクを高めます。そのため、高齢期に口腔機能が低下しないように、日ごろから歯科検診・歯科治療を受け、口腔清掃を含めた良好な生活習慣を継続することが大切です。

執筆者

中田由夫(なかたよしお)

筑波大学体育系 教授

主な研究テーマ
食事と運動を中心とした行動変容が生活習慣病の予防および改善に及ぼす影響を明らかにすることを目指しています。
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